絵の中を旅行しよう

「手伝う?」と僕が聞く。

「それは荷が重い」と咲哉は言う。

 

それが分かっているなら成功する。

 

「一緒に遊ぶ?」でも「やってみたい?」でも「経験してみる?」でもなく、

「お父さんが描くより良く出来るか?」と聞いているのを咲哉は理解している。

 

僕がどれほど本気で描いているかを一ヶ月間も咲哉は毎日見てきた。

 

落ちたら死んでしまう高さの崖を飛び越えるのと同じで出来ないならやってはならないこともある。

でも反対に出来ないと分かっていて飛ばなきゃならない時もある。

作品制作は常にそういうバランスの駆け引きの中にある。

 

”遠くの島” を最初から最後まで完全に任せた。

 

遠くの島を描くには、目の前にあるキャンバスに絵を描こうとするのではなく、

キャンバスの中を歩いて行って遠くに島を置いて帰ってこなければ島は遠くに行かない。

 

一緒に石垣島を旅行した時のことを思い出せばきっとやれる。

 

「つまり絵の中をもう一度旅行しよう。」と僕は言う。

 

絶対に成功してやるという緊張感と、初めて使う油絵の具のワクワク感。

 

予定通り僕が自分で描くより良くなった。

 

「ありがとう。凄く良い。」

 

と僕は言う。

 

咲哉は自分が描いた部分をとても満足そうに一日中暇さえあれば眺めていた。

 

人は生きていればいいというものではない。

 

子供に成長して欲しいと思う以上に僕は自分自身を成長させたいと思う。

でも子供が成長出来るチャンスを逃して自分を成長させたいとも思わない。

 

どうにかその両立へ近づけようとする毎日矛盾の休校中。

 

どんな時もそれが起きなければ出来なかった未来を作ることでしか人は前へ進めない。

 

 

 

 

 

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