「スターバックスでバイトして頂けますでしょうか。」
と千利休に聞いてみた。
「承知しました。」
と千利休は即答する。
この人はスターバックスのバイトでも自分のお茶を出せる自信があるのだ。
この時点で凄すぎる。と僕は思う。
「では抹茶クリームフラペーチーノを一つお願いします。」
と僕は千利休にお願いした。
さあどうする。僕はワクワクしながらそれを待つ。
千利休が僕に差し出した抹茶クリームフラペチーノは湧き水のように無色透明だった。
透明すぎる。
これが抹茶だとしたら絶対に薄すぎる。と僕は思う。
茶室ではなくスターバックスというハンデを意識して引き算し過ぎたのだ。
僕は黙ってそれを一口飲んだ。
やっぱり薄い。
薄いどころかそれは常温の水だった。
削ぎ落とした結果、抹茶クリームフラペチーノは純粋な水に帰って行ったのだろう。
僕はスターバックスの店内にいながら山奥の湧き水をイメージしてそれに向き合おうとした。
無理だ。僕の力不足なのか集中しきれない。
僕はあきらめて一気に飲み干した。
いや違う!
と僕は気づく。これは湧き水ですらない。ただの水道水だ。
一生懸命に泳いでいた時に飲んでしまったプールの水の味と匂い。
「あなたは僕の手に水掻きがあることに気づいたのですね。
本気で水泳をやったことがある人にしかこの水掻きはできない。」
と僕は言う。
千利休は静かに頷いた。
苦しい水泳の練習を乗り越えた日のプールの水と同じ匂いだった。
試合の朝のウォーミングアップ、レース中の記憶、僕の意識が全力で泳いでいたあの頃の夏に帰って行く。
僕はまだまだ頑張れる。
「参りました。素晴らしい一杯でした。」
と僕は言う。
僕は千利休の出した一杯の飲み物にすっかり感動していた。
やはり予想通り千利休ならどのような環境でも最高のお茶を出せる。
僕も頑張らなければ。と思う。
と僕は思考実験を終えて水道水を一口飲んだ。
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*これは僕がどんな環境でも自分を発揮する為に行っている思考実験です。
*写真は千利休の愛した器を、僕が模写した作品です。
紙粘土で作って表面の質感を絵の具で模写しました。ただの石に近づくことが大切だと感じました。
*僕は最近水道水にはまっています。
これは水泳を一生懸命にやったことのある人にしか分からない味ですが、水道水を飲むだけで一気にあの時の練習くらい頑張れる自分に戻れます。
あの頃に頑張ったご褒美だと思いますのでぜひお試しください。