statement

 

Statement

視界の隅々までを大切に思えた時、人は幸せな気持ちになれます。

私は、キャンバスの隅々までを大切な部分にしたいと考え、その日に最も制作意欲が湧くものを日々キャンバスの中に加えていくという方法で絵を描いています。
大切なことは、本当に描きたい気持ちで描けるかどうかであり、たとえそれが制作中の絵に合わなかったり、構図が崩れると感じてもそうします。その結果、自然界の景色のように「すべてが主役で、すべてが互いを引き立て合う世界」が生まれることを発見しました。

さらに、本当に描きたい気持ちを持って描けば、他者が描いたもの同士でもそれが調和し、成立することに気づきました。この経験を通じて、「視界の隅々までが大切になる」ということは、「世界中が響き合える」という可能性を示しているのだと感じました。

「無駄を削ぐのではなく、すべてを必要なものとして受け入れ、それを活かしていくこと。この考え方は、私の作品制作や生き方の根幹にあります。キャンバスや現実世界の中で、どんな些細なものも価値を持ち、それが全体の調和を生む一部になるのです。

 

私はこの考えをさらに深めるために、透明アクリル板を使った立体作品「part of the world」を制作しました。この作品は、キャンバスの外に広がる現実世界でも「すべてを大切に思う視点」を実現できるかを模索したものです。

現実世界では、景色そのものを直接変えることには限界があります。しかし、自分自身の感じ方を変えることで、どんな景色も大切なものへと変えることができます。その象徴的な作品が「part of the world ライオン」です。この作品を景色の中に置くだけで、その場所の感じ方に変化が起こり、景色が愛おしく感じられるようになります。

私はこの実験をさらに加速させるため、再び絵画の中へと戻りました。絵画の中では、あらゆる実験を即座に行うことができます。コンビニやダイソーといった些細な日常の風景、これまで苦手だった人工的な景色、さらには渋谷のスクランブル交差点のような雑多で苦手だった景観さえも、私の中で次々と大切なものに変換されていきました。この制作アプローチを、私は「現代借景」と呼ぶことにしました。

これらの活動を集約し、「透明の森 プロジェクト」では、創業60年の料亭「貯水池鳥山」の大広間をアトリエに改装し、「池平徹兵 アトリエ美術館」を設立しました。
これは、アトリエを「生きた作品」として捉え、これまでアートと関わりのなかった多くの人々と関わり合いながら、「アートがどのように個人や社会に影響を及ぼすのか」というテーマに向き合った動的なインスタレーションとして社会そのものを描く試みです。

人々が「一人ひとりが自分を全力で生きること」によって生まれる他者との響き合いが、視界の隅々までを大切に感じる芸術体験へと結実していきます。

私は、視界の隅々までを大切に思うことが、幸せを生む鍵だと感じています。
それは「すべてを必要として明日を作る」ことになるからです。

それは、一つになることを目的とせず、ばらばらなままで調和を可能にする最後の希望なのです。