「思考は偶然に訪れ、偶然に去ってゆく。保持するすべもなく獲得するすべもない。
一つの想念が失せてしまった。私はその想念を書き記したいと思っていた。
そこで私はその想念を書き記す変わりに、それは失せてしまったと書き記す。」
哲学者のパスカルが言う。
「そこなんだよパスカル。思考は偶然に訪れ偶然に去ってゆく。
だからこそ書き記したいと思った時に書き記さなければならない。
そうしないと全て失せてしまったとしか言えなくなる。」
画家の僕は言う。
そう言った僕も絵の場合は少し違う。
僕は本当に描きたいもなのかどうかを極限まで吟味する。
それが哲学者パスカルにとっての言葉なんだと僕は理解する。
そして僕は哲学者ではない。
パスカルがそれは失せてしまったと書き記す。
僕が失せてしまうかもしれないそれを書き記す。
どちらにしても僕たちは偶然に訪れ偶然に去ってゆくそれを書き記す。