時間

どれくらいの間こうしていたのかが分からない。
息の続く時間を考えると約一分くらいだと思う。
僕は水の中で目を閉じていた。
バスタブの水面から顔を出すと潜る前までの過去はすっかり過去になっていた。

いつだって過去は過去なわけだけど何故かいつもと違う特別な違和感があった。
まるでこれから予定されていた未来が全く別のものに入れ替わってしまったみたいに。

僕はバスタブの水を抜きながらバスタブの隅々まで重曹クリーナーで磨いてもう一度シャワーを浴びて
浴室のドアノブを回した。

もちろん何も変化はない。

仮に何か変化があったのだとしても、何も気付かず未来を受け入れることになるだろうと思う。

未来の事は誰にも分からないのだから。


体を拭いて子どもの寝顔を見に静かに寝室へ忍び寄る。
僕の内側にある大切な何かが変わらずそこにある。
明日で生後100日。
つまり今日までの一日一日が彼の中では人生の1パーセントを占めている。
僕にとっての一日は31年分の1であり占める割合はとても低い。


やはり明日、鯛は食べなくてはならない。と僕は思う。
できれば塩焼きにしてレモンをかけて食べたいと思う。

「北海道のお土産のクマみたいに。」
ベビー服にプリントされたクマが言う。
クマは寝息に合わせて上下している。