これまで僕は7つの閃きの中から一番輝くもの1つを選んで作品にしてきた。
残り6つの閃きはその一枚の中に詰め込まれた。
先月、銀座とニューヨークでの展示が重なって不可能な枚数の沢山の作品が必要になり、
英語でうまく断れない僕は良い機会だと思って新しいことにチャレンジした。
7つの閃きをそのまま7つの絵にして発表した。
するとたまたま出版社の人が通りがかり「これを一冊にまとめた絵本に出来ますか?」
と聞いてきた。
こうして7つの閃きはまた1つにもどることになった。
「できる。」と答えたときは気づかなかったけれど僕は絵本を書いたことがなかった。
今回も絵本作家を目指す余裕はなく気づけば今日から僕は絵本作家だった。
そういうわけで個展の時に電子書籍の依頼があって絵本を執筆中。
「ふつうのいるか」を全20ページに増やして書くことになった。
描きたい絵ばかりが頭に浮かぶ。
絵を優先するから物語が信じられない方向へ飛んでいく。
いきなり ふつうのいるか が普通をやめてしまった1ページ目と、
海の終わりで友達とけんかになった5ページ目。
【「ふつうのいるか」1ページ目】
わずかな水の流れにうまく体を乗せていく。
イルカには地球の磁場が見える。
広い広い海の中、何百頭ものイルカが流れに乗って気持ち良さそうに泳いでいた。
ふつうのいるかもその流れの中に身を任せていた。
やってきた流れになど乗るものか。
流れは自分で作るものだ。
ある日ふつうのイルカは思った。
イルカは群れから外れて当てのない方角へと泳いだ。
【「ふつうのいるか」5ページ目】
「イルカは海の外では生きられないんだよ。君だって ふつうのいるか なんだからやめたほうがいい。」
「そんなことは分かってる。覚悟がないなら最初からついてこないでほしい。」
二人はけんかしてしまった。
「ひどい。」と5才の咲哉が言う。
「確かにひどい。」と読み聞かせながら僕も思う。
もしこのイルカが僕に似ているとしたら、僕は本当にひどい性格だ。と書きながらショックを受ける。
妻の亜矢子やOFFICE BACTERIAにあらためて感謝しよう。
子どもの頃、何度も開いたあのページになるかもしれない場所で自分に嘘をつくわけにはいかない。
絵本「ふつうのいるか」はたぶん、これまでの僕の最高作となる。