北海道 べてるの家

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写真は今回の旅の途中にiphoneで撮った 製作中の作品をホテルの部屋で広げた様子など。




北海道 浦河に精神障がいの研究に於いて世界中が注目する施設がある。
そこでは統合失調症など精神障がいを持つ当事者同士が、自分たちで自分たちの病気を研究し合い、人々は想像を絶する過酷な病気体験を持ちながらも、とても活き活きと暮らしていた。





乾いた機内で冷たいJALのキウイジュースが心地よく体に染みていった。

始めての北海道。
そのことは確実に僕の未来に作用して作品を良くするだろう。
それだけで僕には十分過ぎるくらいの行く理由になった。

広がったり染み込んだり、僕は自分自身と作品の行き先を、いつも自然に任せる。
こぼした水みたいに。

眼下にケーキのような大地。
ケーキの大地を走る飛行機の影。

僕の仕事は水を作ってここに水をこぼすこと。


「皆様お風邪など召しませんよう、どうぞお元気でお過ごしください。」
と機内アナウンスが流れる。
良いセリフなので今度僕も言いたくなった。

僕は図書館で借りてきた「べてるの家から吹く風」向谷地生良著 を閉じてカバンに入れた。

そして考えを改める。
北海道が僕を成長させるのではない。べてるの家が僕を成長させるのだ。
ようやく僕は旅の意味が理解出来てきた。


北海道 浦河 

目覚めるとともにバスタブにお湯をはる。
洗面所のドアは明けっ放しにして部屋を加湿する。
お風呂で体を温めてコーヒーとパンの朝食をとって海岸を歩く。
その土地の空気を体に染み込ませていく。
寝起きから完璧に自分のコンディションを整えて制作に向う。
ほとんどの場合、当日のこの時間にその日のやることを考える。

べてるの家に到着し、みんなの前で話したときに不思議なことが起こった。
全く緊張しない。

赤ちゃんの頃、沢山の人が集まる場所に行ってもまだ誰にも気を使わなかったあの頃の感覚に似ている。

ここでは支え合うだけでなく、それぞれの問題はそれぞれに返すのだと女性が説明してくれた。
べてるの家の36年間の努力がその奇跡的で絶妙なバランスを生み出しているのだ。

さらに、それぞれの病気を個性として捉え、世界中の人々にその力を必用とされるまでになっている。

僕がアートで行えるかもしれないことはアート抜きでそれ以上に実現されている。
もしかしたらアートの力と合わせれば、べてるの家以外の施設でのこの状態に到達するまでの時間を早められるかもしれない。
だけどそれはまた今度ゆっくり考えよう。
ここで起きていることは今の僕の器の大きさを超えている。
僕が「良い作品を作ること」という目的からそれてはならない。

最高の作品を作るため、いつものように「無意識の反応に身を任せるスイッチ」を押した。
あとは無意識の僕が完璧にうまくやってくれる。
池平徹兵 生後36年の努力がこの奇跡的で絶妙なバランスを生み出しているのだ。

今回も参加者のみんなから素晴らしい作品が集まっていった。


僕には絵を描くことしか出来ない。
いつかぼくの作品を辿る旅をする誰かは世界中のどこかの僕の作品へたどり着くだろう。
そうして「べてるの家」にたどり着いたある人にとっては、もう僕の絵は無くても大丈夫かもしれない。
そういうアーティストになろう。

そうなるように、なんとしてもこの作品を成功させよう。



翌日、牧場を散歩していると、大きな馬が歩いてきて僕の肩に顔を乗せた。
僕はその顔の上にiphoneを乗せて写真を撮った。


さあ東京へ帰って絵を描こう。


懐かしくて暖かい場所がまた一つ僕の中に増えた。


偶然にも僕は3月26日~5月7日「ゴッホは自殺しなければ評価されるのは時間の問題でした」という長いタイトルの個展を東京駅丸ビルのアッシュペーフランスで計画している。
南仏アルルの精神病院にべてるの家があったら美術史は大きく変わっていただろうと思う。
説明出来ない、いろいろな何かが僕の中で繋がり、
この引退を賭けた試合みたいな個展のことを今この場で言う勇気もこの旅の中で生まれた。


今回のワークショップは東京大学駒場博物館で4月26日から6月28日に展示します。
その後、北海道のべてるが運営する「カフェぶらぶら」に展示出来たらと考えています。

本当に僕はいつもいろいろな方から価値ある経験を積ませてもらっています。

今回僕を呼んで頂いた「東京大学IHSプロジェクト3科学技術と共生社会」の皆様、そして「べてるの家」の皆様、本当にありがとうございました。
僕はこの経験を一生忘れません。

皆様お風邪など召しませんよう、どうぞお元気でお過ごしください。




「顕微鏡絵画ワークショップ」べてるの家

日時 1月30日(金) 

場所 べてるの家  北海道浦河群浦河町築地3-5-21  http://bethel-net.jp
   
主催 東京大学IHS P3 科学技術と共生社会   http://ihs.c.u-tokyo.ac.jp/ja/education/projects/3/