「メリークリスマス」
昨日仕上げたブロンズの横に絵と全く同じ姿の白熊がいる。
「今日はずいぶん現実的な姿をしているね。実際にそこにいるみたいだよ。」
「それだけはっきりイメージされれば現実にもなるさ。」と白熊は言う。
僕に写真を撮られると白熊は少し緊張したように見えた。
「クララへのプレゼントはちゃんと届けて来たよ。」
「ありがとう。クララからメールが届いたよ。」
サイのブロンズを一通り眺めた後、白熊は微笑む。
「僕の任務もそろそろ終わりが近づいてるね。君も気づいてるはずだよ。雪山で君は成長した。僕を過去にして次へ進むべきだと思う。」
「そうかもしれない。でもさみしくなるね。」僕は言う。
「寂しがる事はない。僕は作品の中で君より遥かに長く生きる。それも分かってるはずだよ。」
作品は完成したと同時に過去になる。
作品は完成したと同時に明日の壁になる。
白熊の記憶が凝縮された2つのキャンバスは未来の前兆のようにそこにある。
「君自身を過去にしないために僕はここに残る。君はずっと進み続ければいい。僕は君の過去に永遠に含まれる。」
「君を過去にして僕は次へ進まなければならない。クラゲの音楽家に過去にされてしまわないためにもね。」
白樺の森を抜けて家に帰ると、あらゆるものが過去に含まれていた。