水族館と昼と夜

夜の闇を映したアトリエの黒い床。
松ぼっくりのマツカサの一つ一つをフェルトで包む。
ついでにドングリの帽子もベルベットに変える。
最近昼が短くなってきたので昼が足りない。

大きなマグロの群れが僕の前を過ぎる。
水族館は実際に潜ること無く、比喩的に僕を水中へ連れて行ってくれる。
しかも呼吸が出来るし、魚までいる。
プールと水族館のバランス次第で僕はとても落ち着いた気持ちになれる。

昼が足りなくなってきた僕はアトリエの床を黒から白に戻すことにした。
恐る恐る床を夜から昼へ変えていく。
白から黒にした時もそうであったように、いつでも人は変化を求め、変化を恐れる。
ペンキの匂いで室内にはいられなくなったので、しばらく水族館で過ごす。

僕は歩くように泳ぐし、泳ぐように描くし、描くように歩く。
魚とそんなに違いはない。ほんの少し複雑なだけ。
水族館の水圧が僕をシンプルな固まりへと変えていく。
地球の自転を止めないように、僕もマグロも泳ぎ続ける。
「少し止まってみない?」
僕は提案する。
「僕は止まれない。試しに止まってみるとそのわけが分かるよ。」
マグロは泳ぎながら僕に言う。
僕は止まる。
呼吸も止める。
心拍停止する。
地球の自転も止まる。

夜、アトリエに戻ると、まぶしいくらいに朝だった。
昨日までの黒い床と、水族館の水圧の反動で、僕は白紙になった。
雪の積もったまぶしさに、室内の物全てが表情を変えた。
熱帯魚はいつもより白く透き通り、剥製のキジは存在感を濃くした。
また新しい時間が動き出す。