ホッキョクグマ

2006年8月13日、2匹の北極熊が檻の中のステージをファッションショーのモデルのように行ったり来たりしている。
僕も白熊も暑さにぐったりしている。その日、僕は白熊の動きを読めるようになる。でもハシビロコウが突然羽を広げたので僕は白熊の記憶を失う。

2004年12月10日、Parisのアトリエから折りたたみ式の白熊のオブジェに想いを込めて日本に送り込む。寒過ぎるので教会に入る。サントリニテ教会。オレンジ、みどり、ブルーのキャンドルが並んでいる。とても広い大聖堂で神父さんがたった一人で歌って祈る。僕と亜矢子は歌わないし祈らない。ただ眺める。

北海道土産の白熊ビールを飲みながら、白熊の記憶が黒の毛糸で結ばれる。
どうして今まで気が付かなかったんだろうと僕は思った。

きっとその子が北海道に行く事によって僕のDNAに組みこまれたスイッチが入る仕組みだったのだろう。
だからこそ僕は羽田空港で父を見送った後、その子が北海道に行く事を直感的に強く望んだのかもしれない。

「僕は雪の山にこもって白熊を描かなければならない。」と僕は言う。
「僕は雪の山にこもって白熊に喩えなければならない。」と白熊の毛皮を着た僕が言い直す。

真っ白な雪の大地にイメージをコラージュする。

隣の部屋で行われているejeのレコーディングの音が雪の降る音に染み込み僕のキャンバスに積もる。

ゴッホは自分を高めるために、ゴーギャンと住む事を強く強く望んだ。
そして耳を切り落とす。

今年最後のとっておきの絵を描く方法を思いついた時、僕には何もかもが想像できた。

もう少し寒くなったら僕は雪山に入る。