師匠との対談

体の中にたまったイメージを出してしまわない事には進めない。
僕は立て続けに絵を完成させる。
それで少し落ち着いたので久しぶりに岩田先生とゆっくり話す。

「車にはねられようと思うんだ。」
そう言い残すと突然先生は道路に飛び出す。
1ミリ先を車がクラクションを鳴らして霞める。
「俺にクラクションを鳴らすなんてとんでもねえ野郎だ。」
先生は怒る。

僕にはよく理解出来ないだけかもしれないけれど、
最近先生とは方向性の違いを感じて、少し距離を置いていた。

「ああいう奴は一度人を跳ねない事には分からないんだ。」
と先生は言う。
「でも結構痛いと思いますよ。」と僕は言う。
「上手に跳ねられるから大丈夫。」と先生は言う。
「ちゃんと受け身とかとって、死なないようにして下さいね。」
「僕は戦争だって乗り越えて来たんだ。」この話はとても長くなるのでまたの機会にしてもらう。
今度から首輪のようなものを付けておかないとダメだなと僕は思う。

「生き方自体が作品じゃなきゃダメだよ。」
コーヒーを飲みながらまださっきの車に先生はいらついている。
「最近僕もそんなことをよく考えます。先生も気づいてたんですね。」
「あたりまえだよテッペイちゃん。でも君まで跳ねられる事は無いからね。」
「分かってます。」
「君は僕の一番弟子だよ。」
シュメール人みたいな顔をして先生が言う。
そういう時、僕は先生を抱きしめたくなる。

今日は少し先生と理解し合えた気がする。
そういう日は僕の心の中に孤独のかけらも見当たらない。
後一ヶ月で今年が終わる。