ダンデライオン

今日はとても寒い。そういう時は春の記憶を読み返してみる。



「きれいだね。君を見ながら同時に太陽を見る事が出来る。」
アトリエに咲いたたんぽぽに話しかけてみる。
「君ために咲いてる訳じゃないよ。」
きっと人見知りなタイプなのだろう。

しばらく、絵を描いていると今度はたんぽぽの方から話しかけてきた。
「ごめん、一応断っておいた方がいいと思ったんだ。
でも本当に君のために咲いてる訳じゃないんだ。僕は僕のために咲いてるんだよ。」

「それでもいいんだ。僕は君を美しいと思う。そして元気をもらう。」
僕は言う。

「そう言ってくれるのは僕も嬉しいよ。だけど僕は誰かのために咲いてる訳じゃない。君は僕に優しく水を注いでくれる。一見、僕はそれに応えるように花を開く。だけど実はそうじゃない。不純なんだ。」
「誰だってそうだよ。僕だって自分のためにこうして今も絵を描いているんだ。世界平和のためや環境保護のためじゃ決してない。そういうふうに言える君はとても素直だと思うよ。」

そしてたんぽぽは、ドモホルンリンクルのCMや、マクドナルドの安心0円や世の中について一通り悪口を言った後、綿毛になった。

「僕を遠くまで飛ばしてくれないか。」
白髪のたんぽぽが言う。
「その結果、君はまた誰かを幸せにする。もちろん君は君自身のために花を咲かせる。それでいいんだよね。」
たんぽぽは頷くと、一瞬にして風の中へ消えた。

僕は残った軸をまた花瓶に戻す。