メリット

僕は六本木ヒルズの入り組んだ迷路の行き止まりにいる。
僕の絵を飾るメリットが分からないとその男は言う。
僕も僕の絵を飾るメリットを自分で語るメリットが全く分からない。
最初僕はいつものように散歩やドラゴンフルーツや冬虫夏草について話していたのだけど、
その男の言葉の一つ一つが僕の心の奥深くに沈めているものに火をつける。

僕は僕の絵にどれだけ価値があるのかを語り始める。
話せば話すほど自分の中にあるハードルが取り返しのつかないくらい上がっていくのが分かる。
これくらい乗り越えられると自分に言い聞かせて、さらに僕は語る。

時々僕はそうせずにはいられなくなる。
画家になる事を認めてもらうため。
亜矢子との結婚を認めてもらうため。

3年前のHIGUREでもそうだった。
僕はその時に自分が口にした言葉に見合う絵が描けるまでそれから3年もかかった。
その間、あらゆる思いつく限りの方法で僕は僕を高めようとした。
そのためにNYにもPARISにも行った。
自分が口にした言葉に見合う絵が描けたかどうかは今でも分からない。
ただ、そのことでこの前のHIGUREでの個展には特別な想いがこもった。

「メリットが分からない。」とその男は恥じる様子も無く静かに言う。
ドラゴンフルーツや冬虫夏草の話が届くには2年くらいかかりそうな上にもう時間が無いと言う。
「わかるわけないよ。」と僕は思う。
だけど僕は僕がそのとき口にした言葉にはちゃんと責任を持つ。

いつかその人がメリットを見付けて、僕の絵をちゃんと見るように、この記事をちゃんと読むように。
ドラゴンフルーツを割る事にメリットを見付けられるように。

そしたら今度は食事でもしながらメリットとかじゃないことを沢山お話ししましょう。