かさじぞう

僕は今、東京駅の大丸にオープンするステッキ屋さんに設置する壁画を描いている。

描く内容、報酬の増量、コンディション作りの為の登山や水泳やロッククライミングなど思いつく限りのいろんな手段を使って、今日の僕がやる気が出るように整えてきた。

と同時に島根県立美術館の個展の準備と、別のもう1つの大作の制作、クリスマスツリーのデザイン、いくつかのワークショップの計画、OFFICE BACTERIAも同時進行しており、さらに来月に引っ越しまで決まったので毎日くたくたになって眠る。


夜中の2時。

豆をまいているようなパラパラという音で目が覚めた。

僕はこれまでに2回玄関の鍵をかけ忘れて泥棒に入られたことがあるので今回もそれだと思った。
一人目は7万円盗まれて、2人目は逮捕した。

布団の中で気付かれないようにストレッチを始める。
眠っている筋肉と関節のひとつひとつを丁寧に覚醒させて行く。

ナイフを持っていた場合の最悪の事態を想定したイメージトレーニングを数回行う。

戦う前に試しに枕元に置いてあったiPhoneで「夜中にパラパラと豆をまく音がする」で検索してみたけど参考になりそうなものは見あたらなかった。

僕が全身を瞬発力のバネにして音の方に忍び寄っていると。

「何か変な音がするね。」
亜矢子も音で目を覚ましていた。

亜矢子は玄関の鍵はかけたから泥棒じゃないという。

音のするリビングを見渡す。音は鳴り続けている。

誰もいない。

でも目には見えない何かがいる。

ぱらぱらぱら、ドングリの雨が降っているみたいに大きな音がする。
ドングリの雨が降っていれば辻褄があって安心出来るのだけどドングリは降っていない。

うちの床は歩くと、きしんでパキッと音が鳴る部分があるのだけど、
床一面が同時にその音を出しているのできしんでいるというよりは豆まきの音のインスタレーションみたいになっている。

見えない神様が見えないプレゼントを部屋中にまいているみたいだ。


これは傘地蔵だ。
と僕は思う。


僕は幽霊とかは信じないのだけど、何故か直感で理解した。

お地蔵さまがいろんなお土産を持っておじいさんとおばあさんの家に来る 
咲哉が寝る前に読んでいた絵本のシーンのイメージとピタリと重なった。


「福来たる。」
と僕は亜矢子に音の原因を要約する。


再び布団に仰向けになって目を閉じると全部うまくいく気がしてきた。

人に評価された部分をあっさり捨てる勇気がないなら評価なんかされるべきじゃない。
かさじぞうも来たし僕はやれる。

自分に言い聞かせてまた眠る。