認知症プログラム

以前に大阪で個展をした時に水泳部の細見先輩の実家に一ヶ月間泊めてもらったことがある。
僕が朝起きて一階におりると先輩も先輩のお父さんもお母さんも先に仕事に出掛けていて
おばあちゃんだけがいた。

おばあちゃんは会うたびに
「知らないお兄ちゃんが家の中に入っているよー。」
と言って僕を傷つけるチャーミングな人で毎朝僕は自分がただの知らないお兄ちゃんではなく素晴らしい絵を描く画家であることを説明しなければならなくて個展にも来てもらった。

先輩のおばあちゃんはもういなくなったけど、不思議なことにあらゆることを忘れて行く中、人生の中の経った一ヶ月間しかいなかった僕のことはずっと覚えていたとあとから聞いた。


作品を展示中の老人ホームやまぶき荘でアーツアライブの林容子さんが僕の絵を使って認知症プログラムをやることになり僕もお手伝いと見学に行った。

これが全く予想もしていない素晴らしいものだった。

美術館のような立派な展示ではなく会議室にただ4枚の絵を並べただけの会場。
そこで僕の作品がこれまででもっとも活かされた衝撃の一日になった。

これは認知症の治療でもなく、林さんの作品でもなく、僕の作品でもなく、、
僕と林さんと認知症のおばあちゃん達、まるで全員が対等の立場で1つの作品を作る即興のコラボレーション作品のようだと思った。

時間も記憶も減って行くおばあちゃんの中に確実に目に見えない何かを増やしている。

結果的に全く同じ分量で、おばあちゃん達の為のプログラムであり、僕の為のプログラムであり、林さんの為のプログラムになっている。

プログラムが終わった時、見学していた僕とギャラリストの森谷さんは素敵な映画を一本見終えたときのような気分になっていた。

普段は美術館でモネやゼザンヌやルオーなどを使ってやるらしいけど、ルオー達にもぜひ見せたかったなと思う。

「今日見た4枚の絵のことは一生忘れない気がする。」
といろいろと忘れ過ぎるおばあちゃんたちが言う。


誰かの為に青空は作れない。けれど誰かを青空の下に連れ出すことは出来る。



興味のある老人ホームの方はぜひ相談するといいと思います。モネやセザンヌを老人ホームに借りることはとてつもなく高額すぎて不可能だけど、僕なら可能なうえに作品も劣らないかもしれない。

アーツアライブ
http://www.artsalivejp.org/