「最後のライオン」2021 162.0cm×324.0cm oil on canvas
この作品は池平徹兵 個展「最後のライオン」にて展示します。
6月25日(金)- 8月5日(火)
H.P.FRANCE WINDOW GALLERY MARUNOUCHI
https://hpgrpgallery.com/jp/window/
「最後のライオン」
その日に一番描きたいものをキャンバスに加えていく。
隅々までを本当に描きたい気持ちで描くと、
描いたものは一つになることを目的とせずに一つになり始め、
全てが主役のまま、全てが互いを引き立てあう世界になる。
こうして視界の隅々までを大切に出来ると、私は幸せな気持ちになる。
時には前に描いたものが今日描きたいもののじゃまになることもある。
「少し横によけてくれないかな。」
と私は思う。
もちろんよけてはくれない。
でもそのじゃまする姿が抱きしめたいほど愛おしい。
私はその横に負けないくらい愛おしい今日を描き加える。
それはその日の描きたいものをすでに描き終えた夕方のことだった。
これから娘を保育園にお迎えに行かなければならないそんな時間。
私はたまたま老衰で死の淵にいるライオンの写真を見た。
その頃、絵の外の世界では新型コロナウィルスで沢山の高齢者が亡くなっていた。
突然私はそのライオンを描きたいと思った。
余力も時間も少ないけれど、この気持ちは明日まで保存はできない。
これからやらなければならないことも、これまでやってきたこととも関係なく、
ただ今の描きたいという気持ちが無条件に最優先された。
これが本当に描きたいということだ。
描き終えて急いで保育園のお迎えに行くと子どもたちが園庭を元気に走り回っていた。
「お迎えが遅いからお父さん死んじゃったのかと思った。」
と娘が泣きながら出てきた。
「もう少し泣かずに待っていてくれないかな。」
と私は思う。
子ども達との時間が絵を描く時間をじゃますることもある。
でもそれを抱きしめたいほど愛おしく思える。
視界の隅々までが大切だった。
私はとても幸せな気持ちになった。