アトリエの楼梅が一輪咲いた。
寒々しく葉の落ちた街路樹を目に焼き付けながら駅の向こうの植物園へ向かう。
全く食べたくも無いアイスクリームを買うと寒さは更に増した。
その扉の向こうは夏の匂いが立ちこめている。
冬と夏の境界線を一歩でまたぐ。
レッドジンジャーのトンンネルを抜けるとココナッツや旅人の木が天井を隠すほど高く茂っていた。
手袋を取って、コートを脱いで買って来たアイスクリームを食べながらどんどん夏の奥へ足を踏み入れる。
中心部に巨大なバナナの花が咲く。バナナの花の中を数匹の蟻が歩いている。アイスを一口あげる。
しばらく池の横にある丸い椅子に腰掛けて冬を一旦リセットする事にした。
冬の良さが寒さの影にすっかり隠れてしまっていた。
いったい何のための冬なのかが分からなくなったら植物園へ行くといい。
そういう人のためにいつでも完璧な夏を用意して待っていてくれる。
一時間ほど熱帯のジャングルに滞在して、今度は夏から冬へ一歩で帰る。
スケッチもしないし写真も撮らない。この気持ちがあれば作品は描ける。
冬の寒さが僕の背筋を伸ばす。
駅のロータリーで人々が冬の寒さに背を丸めてバスを待っている。
みんな植物園に行けばいい。
そうすれば日本ももう少し楽しい国になる。
僕は真冬の植物園で、冬のように澄んでいて、夏のように暖かい青を手に入れる。
わがまま言わなければまあまあ売れていずれ消える。
わがまま言っても待ってもらえるなら売れなくても作品は消えない。
超大作を製作中のため新作はだいぶ先になります。
みんな植物園に行って下さい。
この季節、僕の個展もダリの個展も植物園にはかなわない。