47個のドローイング

2009/1.20(tue) - 1.25(sun) 「AirportBACTERIA」



「今回はgO君は一緒じゃない。」
僕は言う。
「しまった。」
ブリアンデカナエは言う。

何かが彼女にチェックメイトしたらしい。


生絞りグレープフルーツサワーのような、過剰な柚子湯のお湯が目にしみる。
僕はそっとお湯を手に取ると、化粧水を扱うように肌になじませた。


一年前、音楽家gOと巨大な引力を持つ作品を作ったことがある。
「水圧の隙間」「透明の開封」「花咲く水槽」と回を重ねるごとに完成度は高まり
あらゆる人々を吸い込んだし、吸い込み続けているはずだと僕は思う。

僕は今でも例えば、
無名のピカソが一枚の絵を電話ボックスに忘れたとして、
それだけで、世界的な画家になると信じている。

最後の展示が終わって、一つのキーワードが僕の中に生まれていた。
内側から外側へ。
解放しよう。と僕は思う。


もちろん自分自身で作り上げた引力の固まりは、僕をなかなか外へ出してはくれなかった。
ひどい時は、家から半径500mくらいしか外へ出られなくなった。



南仏アルル。
外へ外へと内面的にも現実にも振り切る為、こんなに遠いとこまで来た。
野生のフラミンゴがピンクを振りまき、風の向こうに消えて行く。



散歩をしていると僕たちは偶然ゴッホの精神病院の中庭に立っていた。
彼の抱えた苦しみと僕の抱えた苦しみが突然重なる。
僕はついにお腹が痛くてそれ以上歩けなくなった。
先に行ってて欲しいとブリアンデカナエに伝える。
「私もよくお腹が痛くなる方だからその気持ちはとてもよく分かる。」
多分よく分かっていない彼女は僕の回復を待つという。
僕は30分以内に一生分の問題を解決する必要があった。


僕は今でも例えば、
無名のゴッホが一枚の絵を紙飛行機にして飛ばしたなら、
それだけで歴史的な画家になると信じている。


旅から戻ると、時を同じくして音楽家からのサプライズがパリに届く。
楽家とカナエは僕の知らないとこで組んでいた。
二人に導かれ操られながら僕はパリ市内を走り回る。
僕は一日以内に一生分の課題を解決する必要があった。

そして僕は全てを乗り越えた。


2009年一月。
「私はあなた方二人に見事に巻き込まれてしまったようだね。」
ブリアンデカナエが僕に言う。
「巻き込まれたのは僕の方だよ。」
僕は言う。


僕は今でも、
本物の作品は何もしなくても自然とそうなると信じている。
僕はそれを作ることだけに集中する。
それだけじゃないことにもうすうす気付いてはいる。
二人のマネージャーがいる。

だから僕はそれを作ることだけに集中する。

ある日、僕はそれを電話ボックスに忘れ、
ある日、僕はそれを紙飛行機にして飛ばすかもしれない。
それだけで十分な作品を作ることに僕は集中する。


浴槽に浮かんだ柚子を、
上に投げる。
引力に引き戻されて再び手のひらに落ちる。
底へ向かって投げる。
引力が浮力に押されて手のひらへ戻って来る。

同じことだ。と僕は思う。


柚子の黄色が眩しく目に染みる。忘れられた遠い部屋で起こる怪奇日食がそれを和らげるまで。

http://jp.youtube.com/watch?v=yHHyMU9STMw&feature=channel_page