オープンアトリエに壁画「希望」を展示しました。

 

アトリエの2階に壁画「希望」を飾りました。

はじめてみんなの絵を一つにした作品です。

その時の日記もよろしければお読みください。

 

壁画「希望」

 

2014 145.0cm × 10m キャンバス、油彩、アクリル絵の具

 

 

このプロジェクトは一般社団法人アーツアライブ主催「平成25年度経済産業省地域ヘルスケア構築推進補助事業」の一環として実施され、壁画「希望」は30人の高齢者と共に制作した作品です。

みんなの絵を一つにする僕のワークショップはこれが最初です。

 

 

ワークショップ1日目

 

僕は参加者に手紙を書いた。

参加者に絵の経験はなく、脳の体操に来たらいきなり僕と一緒にオリンピックを目指してほしいと頼まれた状態にある。予想以上の緊張が会場に張りつめている。

絵は描けないというみんなに三角と四角を描いてもらった。

それを家にして窓やドアをつけたり、描くことに慣れてもらった。

僕はそれを10mのキャンバスに貼って村を作った。

そしてみんなの”本気の絵”が本当に必要であることを伝えた。

「次回、本気で描いた絵を持ってきてください。」

と宿題を出した。

 

 

2日目 

 

突然奇跡は起きた。

全員が何かを乗り越えた顔で誇らしげに会場に宿題をもってやってくる。

たった1日の間にどうやったらこんなに成長できたのだろう。

しかも30人同時に。

壁画は誰もの予想を遥かに超える作品に成長し、

ここに絵を加える時、ボーリングでストライクが出続けている時のあの緊張感が参加者を襲う。

そのあまりのプレッシャーに今日は見学にさせてほしいと言うおじいちゃんもいた。

僕はその申し出を丁寧に断る。

一日でも自分から逃げた経験を作ると家に帰ってから後悔でひどいことになる。

「逃げなければやれる。」

今日まで見事に全員がそれに打ち勝つことが出来ている。

次第におじいちゃん、おばあちゃんたちの雰囲気も変わって来た。

彼らが身にまとっているのは失敗を恐れる緊張感ではない。

最高の場面で自分に打順が回って来たときのあの奮い立つような緊張感。

自分がここでホームランを打ってやる。

と彼らが無言のメーセージを発信してくる。

3日目

 

それでも作品は完成に近づくにつれて壊したくない気持ちが強くなり、手を加えるのが怖くなる。

「もう完成でしょう。これ以上この画面に何をするんですか?」

と何人からも聞かれた。

「まだまだこれからです。」

と僕は言う。

でも実は誰よりも僕が不安に思っていた。

気をまぎらわす為にテレビを付けてみた。

「かぼちゃの煮付けはちょうど良いところで火を止めることが大切です。」

料理番組の一言一言までが僕に刺さる。

 

4日目

 

僕がそんな不安と闘っていることを僕よりずっと長く生きてきた参加者たちはたぶんお見通しだったのかもしれない。

参加者が想像を遥かに超える最後の宿題「鳥」を持って集った。

それはもの凄く本気の鳥だった。

あまりに素晴らしくて感動していると、おばあちゃんがカバンから2枚の失敗作を出してみせてくれた。

「これが描けるまでに2枚失敗しました。」

全然それは僕から見ると失敗などではなかった。

その失敗作で十分僕の想像の範囲は超えている。

でもよく見ると確かに1枚目より2枚目、2枚目より3枚目の方が良くなっている。

すると他の参加者も同じようにぞくぞくと、壁画に加える1枚が出来るまでに何度も挑戦した失敗作をカバンから取り出した。

一枚完成しては「自分はもっと行けるはずだ」と思い直し、もう一度挑戦を続け、今日が来るまで自分を高める努力を繰り返してきたのだ。

ここは国立長寿医療研究センター

長寿どころか今にも燃え尽きそうなほど頑張っている。

 

5日目 最終日

 

描くものも描く場所も参加者に任せた。

僕たちは一斉に壁画に立ち向かった。

途中カタツムリがカタツムリに見えなくなったおばあちゃんが不安に襲われた。

しかも大きく描き過ぎている。

彼女は昔から絵が苦手だったと言っていた。

苦戦するうちに絵が巨大化する特徴を持っている。

でも彼女はひたすら弱音を吐かずに描き続けた。

だから僕はアドバイスを我慢してひたすら応援に徹した。

一時間が経過した頃、逃げ出したい気持ちを5回くらい通り越した神々しいカタツムリがそこにいた。

 

よく見ると10mもある画面の隅々までがそういう空気で覆われている。

僕たちはやり遂げた。

会場は喜びと希望に満ちていた。

「この作品のタイトルは"希望"とします。 皆さんはこの絵の作者です。

 いつまでもそれを忘れないでください。」

ありふれた題名だけど世の中の希望と題された作品全部と勝負できる自信がある。

人は人生の最後まで燃える炎であり続けることが出来るのだと僕は思った。



 

 

壁画「希望」は「池平徹兵 オープンアトリエ」にて展示中です。

場所:貯水池鳥山 

http://toriyama1.web.fc2.com

*池平が不在の時も貯水池鳥山営業日の11:30~18:00一般開放しています(木曜定休)

*貯水池鳥山受付にてワンドリンク先オーダー制にてご入館頂けます。

貯水池鳥山とRENOCAMP TORIYAMAにてお食事をされた方は無料です。

入館の際は、はじめに貯水池鳥山の受付までお声がけください。