11月4日 毛糸の物語

コウモリを捕まえようと猫が3階から飛び降りた。
「そうあるべきだ。」と僕は言う。

ギャラリーとレストランの2つの作品を毛糸でつなぐ。
たどり着いた場所での発見が出発点となるように。
長い長い毛糸をなびかせ僕は渋谷の町を進む。
毛糸がクラゲの触手のように風に舞い、あらゆる人に絡み付く。

優しそうな人の前も怖そうな人の前も警備員の前でさえも一瞬の躊躇も無くあたりまえのように毛糸を伸ばす。
通行人が痛々しい目で僕を見る。
僕の精神を容赦なくえぐり、間違った事をしているかのような感覚に引きずり込もうとする。
「そうあるべきだ。」
と僕はもう1度自分に言い聞かせる。

目眩がするほど無意味な看板に埋め尽くされた渋谷の町に伸びるシンプルな毛糸の線。
沢山の誘惑に囲まれて、本当に大事なものの縮図のようにそれは伸びる。

その夜、毛糸をたどって沢山の人々が僕達のところへやって来た。
予想を超えて沢山の人がやって来た。
「毛糸をたどってたらここに着いたんですけど。」
毛糸の先の答えを求めて不安そうに、楽しそうにやってくる。

その毛糸の先にあるものに僕は全てを注ぐ。
いつか世界中の人が毛糸をたどって僕のところへ押し寄せたとしても、
全てを満たす光の雫を僕は作る。

先日、コウモリを捕まえようと猫が屋上から飛び降りた。
「そうあるべきだ。」とその日のアーティストトークの中で僕は言う。