記憶の濾過紙

去年を終わらせた僕に、今年を始める力は残っていない。
だから去年の僕を今年に連れて来ない。

時を超える力を持つものを僕は一貫して好む。
儚さを含みながら今も存在するものを特に好む。

新しいだけがとりえですぐ消えるものを僕は一貫して嫌う。
散らずにしがみつくけど忘れ去られる潔わるさを特に嫌う。

存在し続けた僕を僕は祝う。
存在し続ける僕の誕生を僕は祝う。

写真に写すと全てが記録される。
記憶に写すと大事なもの意外はいずれ消去される。

写真の中の100人のうちの一人がたまたま涙を流していたとしても、気づかないかもしれない。
画家は100人目の涙までその手で描かなければならない。

記憶の濾過紙の下で僕は今を描く。