期待の法則

絵を描いては階段を上る。
作品の出来次第では一度に数十段のぼったりもする。
もっと早くもっと高くと絵を描く。
この絵が完成すれば上の階へたどり着くだろうと僕は期待する。
そして期待はあっさり裏切られる。

それでも僕は期待する。
何度も何度も繰り返す。
何も期待出来なくなるまで。

その時、エレベーターの扉が突然開く。
ずっと階段を登ってきた僕にはそれが何なのかも分からない。
期待することに疲れきった僕はその小部屋に入る。
下でも上でもどこでも連れて行けばいい。
もはや僕は期待しないし、閉ざされたそこからは階段すら見えない。
それが僕を何階へ連れて行こうと僕は集中してただ絵を描く。

エレベーターの扉が時々開く。
予想より遥か上の階に止まることもあるし、
ずっと昔に通過してきた階に戻ることもある。

何処へ連れてかれようと扉の向こうの期待を僕は必ず超える。

「最上階へ行く準備はできていますか?」
エレベーターが僕を試す。
「最上階とかは僕には全く関係ない。」
僕は言う。