上空3000mの雲海

アトリエの窓から見えるケーキ屋の煙突にサンタの人形が一日中出入りしている。
2007年の残りが完全に把握出来る量になった。
まだ終わりたくはない。
残りの時間の全てを一点の絵に捧げよう。


「上空3000mの雲海は多分、
乗客の皆様の目的地の景色より遥かに素晴らしい。」
機長の僕が言う。
目的地しか見えない乗客はそれに気付けない。
そして僕は誤解されやすい。


貴重なラピスラズリの石を粉にしてキャンバスに青をのせるフェルメールのワクワク感。
使う色に対しての敬意。


僕の才能が死ぬまで埋もれ続けることは、
子どもの頃にやったどんなかくれんぼよりも難しい。
手つかずの財宝の山はいずれ発見される。
それを知っている僕は、
どんな苦境もそれまでの必要な過程としてとらえることが出来る。


フェルメールが僕に初めて絵の具を買ったときの気持ちを思い出させてくれた。
その色を使うことが楽しみでしょうがない気持ち。


「君は世の中から隠れないことによって隠れることに成功している。
上空3000mの雲海のように。」
サンタクロースが僕に言う。


イチョウの葉っぱが蝶々のように、サンタクロースと僕に張り付いた。


「本気で隠れたくなった時、君は発見され続けるよ。
消したドローイングの線まで一つ残らず。」
フェルメールが僕に言う。