白い壁

2週間前、ただのキャンバスにしか見えなかったアトリエの白い壁。
この二週間のあいだ
僕の視界のほとんどをこの壁が独占していた。
昨夜、ついに壁が景色を映す。
あす朝、目が覚めて一時間以内に水中へ行けばまだ間に合う。

目がさめると同時にプールへ向かう。
光の差し込む水中を僕は何度も何度も往復する。
視界が水洞窟に変わるまで。
水中の泡の一つ一つを出来れば持って帰りたい。と僕は思う。

プールサイドで休んでいると水着の老人が僕に話しかけてきた。
「どうしたらそんなにきれいに泳げますか?」

「ポイントは息つぎの表情です。」
考えた結果、僕は全てを一言に集約させてアドバイスをする。
でも分かりづらかったようなので付け加える。
「まずここをプールだと思わないことです。」

「あなたはここを何処だと思って泳いでいるんですか?」
老人が不思議そうに聞く。

「たとえば花咲く水槽です。」

自信を持って僕は言う。
水着でアーティストトークはやりにくい。
僕は再び水中へ潜る。

アトリエへ戻る。

かつて白かった壁が水中へ沈む。

間に合った。