2杯のカフェオレ

古い古い洋館に僕はいる 教会の鐘が15分置きに時を刻む
パンがおいしい 毎朝4個も食べる
僕は意識を無にしてパリへ来たという感覚を持たない
チェスの駒を指でつまんで新しい升目にぽんと置くように 僕は僕自身をパリに置く
そう言うわけだから僕は流れに身を任せるようにして車に乗せられある場所へ向かう

パリ郊外 フォンテーヌブロー 昔ここは海底だった

草原は地球の丸みを感じるほどに広く 森は海の底のように深い
大きな岩が幾つも転がり 大木はツタに絡まって倒れ 
床一面に多様な苔と青い花が敷き詰められている
僕は海底に立っている
歩くと土は布団のようにやわらかく 白い苔と緑の苔が細くもつれて透明な水に揺れる
その上に立つ 一件の白い部屋
共同オーナー達が次々に集まってくる
パンとチーズを食べながら 審査とパーティーと会議
はすとばらの写真を見せる
;境界線上の朝食;
僕は言う
;君にここに描いて欲しい 夏になると吸血虫が発生するので来週末からスタート出来る?;
もちろん出来る 部屋を見たとたん一瞬でイメージは出来ていた
ただそれ以上に僕はアンモナイトの化石を探したくてわくわくしていた

再びパリ自宅
オスマン様式の部屋にはかどがない
使いやすいように掃除をして模様替えをする
新しいドローイングやアイデアが次々に押し寄せる
遠くで亜矢子が悲鳴を上げる
机からバスルームまで25メートルくらいある
僕は廊下を走る
亜矢子の顔に吸血虫が顔を突っ込んでいた
海底の森の至る所に亜矢子を寝かせて写真を撮った為だと思う

自宅でインターネットはつながらない
僕たちは幸せに生きている
僕はいつだって見つけられたいと思い そして行方不明になりたいとも思う
教会の鐘が15分置きに時を告げる
カフェオレがおいしい 毎朝2杯のカフェオレを飲む