バランス

世界大会に於いて、僕は世界記録を更新する必要と自信を兼ね備えていた。
但し、それは世界大会においてであったので
僕はそれに出場できないもどかしさからバランスを失った。

僕は日々の練習に於いても、全てでベスト記録を更新しようとした。
記録を更新できない日の夜には自分を責めた。
世界記録で泳いでる自分以外はたとえ練習中であっても誰にも見せたくはなかった。
毎日が真剣勝負の本番だった。

ことについて僕は思い出していた。
ヨーロッパの建物はどこもロッククライミングしやすい装飾で覆われており、
僕はお城の上に登って屋根に座ると景色を眺めた。
広すぎると距離感はつかめなくなって足を支える土はやわらかくなる。

可能性に満ちた練習を見せよう
と僕は思う。
今にも未来の夜に灯りがつきそうな希望に満ちた朝の練習みたいに。

不安定なお城の上に僕はひざを伸ばして立った。
何百年もそこに積まれてあったレンガのいくつかが崩れて落ちた。
くずれたければくずれたらいい。
僕はもうバランスを崩したりはしない。