いつものように植物に水をあげるために水を持ってベランダへ向かう。
3つ葉の観葉植物から、4つ葉を通り越して5つ葉が生えてきていた。
その突然変異の葉の上に1羽の蝉がとまる。
鳴く。
声は次第に大きくなる。
徐々にスピードを上げていく。
最終的に自分でもわけが分からなくなって鳴かなくなった。
「回転数を上げ過ぎたね。だからそうやってわけが分からなくなる。」
同じように回転数を上げ過ぎたことのある僕は蝉に言う。
「そんなこと言ったって、他の蝉に差をつけなければ鳴く意味もありません。」
「他の蝉のまねをしていてもしょうがないよ。」
「意味が分かりません。回転数を上げる以外、他に努力のしようがないのです。」
蝉が言う。
「飛びながら鳴きなさい。」
僕は言う。
蝉はしばらく考え込んでいるようだった。
僕はしばらく考え込んでいるようだった。
蝉世界に於いて飛びながら鳴くというのは
世界全体の進化の一歩となるかもしれない画期的なアイデアだった。
僕は葉の上から飛び立つとそれに挑戦することを決意した。
鳴こうとすると羽が止まり。
羽ばたこうとすると声が止まった。
2つのことを同時に行うのは非常に難しい。
こんなことをしている間に寿命の一週間は終わってしまう。
一生を無駄にしてしまうかもしれない。
それこそ意味がないような気がして僕は僕を疑ったりもした。
力尽きて落ちる途中、
落下しているのか飛んでいるのか分からない風の中、少し声が出たような気がした。
落ちた場所はいつかの突然変異の5つ葉の上。
僕ももう少しだった。
最後の空を僕は見ていた。
ベランダの窓が開き僕が水を持って出て来る。
そして僕は蝉ではなくて僕だった。
もちろん僕にはまだ時間がたっぷり残されている。
「おかえり。よくやったね。後は僕がやる。」
僕は蝉に言う。