白くまと 灰色の人間と 黒毛和牛が 一同に会することは初めてのことだった。
僕は三色の顔を静かに見守る。
「あなた方を絶滅させたりはしません。」
灰色の人間は白くま保護についての見解を熱く語った。
良く出来た素晴らしいスピーチだった。
「先程から白くまについての見解ばかりですが、私たちについてはどうお考えですか?」
黒毛和牛が問う。
「もちろん同じように考えています。
私たちはあなた方に完璧に行き届いた食事を与えているはずです。
絶滅の心配はありません。 」
ミヒャエルエンデの小説に出て来るような灰色の顔が言う。
白くまが目を閉じる。
そしてはじめて口を開いた。
白熊にとって会議は申し分ないほど優位に流れていた。
だまってさえいれば会議の後、灰色の人間から最高級の黒毛和牛の焼き肉をごちそうになる約束までしていたし、それをとても楽しみにもしていた。
「あなたはだまされている。」
黒に白が言う。
言ってしまった。もう後戻りは出来ない。と白熊は思う。
「正直に言いましょう。僕はあなたもそしてあなたも食べたいと思っています。肉食獣というのはそう いうものなのです。
黒毛和牛さんあなたがおいしい食事を与えられているのはあなたをよりおいしくする為です。
灰色の方、白くま保護はしなくて結構です。僕たちが増え過ぎた場合、今度はあなた方は僕たちを減 らそうとするはずです。ほっといて下さい。」
黒毛和牛に目をやると、闘牛の様に後ろ足を踏みならし重心を低く取りながら尖った角を灰色の人間に向けていた。
実は前々から不信に思っていた。
牧場の生活はあまりに心地よく、それを失うのが怖くて聞けなかったことが一つある。
白熊が勇気を出した以上、僕も確かめる必要がある。と牛は思う。
そして何より今年は牛年だった。
「正直に答えて下さい。あなた方は毎日、僕の優秀な仲間を選抜して何処かへ連れて行きますね。
早く選抜されるよう頑張りなさい。とあなたはいつも僕たちを励まし応援してくれます。
ところが何処へ連れて行かれるのかは未だ謎です。
帰ってきた者が一人もいないからです。正直に答えなさい。僕の両親はお元気ですか?」
黒毛和牛は言う。
灰色の人間はテーブルの下で静かに拳銃を抜いた。
目には涙を浮かべていた。
いったいどこで間違えてしまったのだろう。と思う。
二人を愛する気持ちは本当だったはずなのに。
先程の素晴らしいスピーチがまぶたの裏に滑稽に映し出された。そんなことより遥かに深刻な問題が目の前に広がっていた。
白熊も黒毛和牛も泣いていた。
僕は三色の顔を静かに見守る。
涙はどれも透明に澄んでいた。
「遅くなりましたが、あけましておめでとう。素晴らしい丑年のはじまりです。」
僕は言う。
そして拳銃の弾は僕を貫き 鋭い牙は僕の骨を噛み砕き 角が正確に僕の心臓を射抜いた。
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最後に [今年もよろしくお願い致します] と僕は書き加える。
そして僕はとても長くなってしまった上にテーマが重すぎるこの年賀状を出すのをやめた。