白鳥の取材と僕の取材

昨日の夜から今朝が来るのが楽しみでしょうがなかったし、
今夜も明日の朝を楽しみにして眠れないだろうと僕は思う。
僕の睡眠時間は興味の外へ追いやられ削られていく。

今日の午後は雨らしい。昼だけど少し眠ろう。



ハクチョウが一羽浮いている。
「完全に渡りそびれてしまいましたね。大丈夫ですか?」
僕は声をかける。
先日までのハクチョウの群れはもう一羽も見えなくなっていた。

「渡りそびれたわけではありません。
 繰り返す、ただ往復するだけの飛行に飽きただけです。
 私はまだ行ったことの無い空へ飛び立ちたい。」
ハクチョウは空を見る。
野生のハクチョウは公園のと目つきが違う。

「おめでとうございます。
 僕はちょうどそのようなハクチョウを探していました。
 それで行き先はもう決まりましたか?」
僕はハクチョウに一歩ずつ近づく。

ハクチョウはしばらく黙ると首を水面に落として波紋を作った。

「正直言うと、それがいつも分からなくなります。
 だからここでこうして一人で浮いています。
 他のハクチョウ達が今頃、全力で旅していることを思うと、
 さぼっているだけのような気持ちになります。」

「来年、仲間が戻るまでそこで浮いてみてはいかがでしょうか?
 それだけでも例年通り渡るよりずっと勇気のいる行為です。
 これまで他の一羽も気づかなかったことに あなたは気づいている。」




この個展を通して伝えたいことは何も無い。
ただ海が存在するように。100人の人が同じ海を見て100通りの感じ方があるように。

白鳥が帰って来ること、皆既日食が起こること、火山が噴火すること、
その他あらゆる自然現象と同じように僕の個展は開催されればよい。

そして、
僕の行いひとつひとつもまた、自然現象の一つである。と僕は思う。



「もう少し詳しくお伺いしたいのですが。
 このままでは来週の取材をどのように進めていいか分かりません。」
電話の向こうの記者が言う。

「先日、あなたは渡りそびれたハクチョウの取材をしましたね。
 ぼくは今、そのハクチョウを見ています。
 あれとまったく同じようにやっていただきたい。」
すでに言葉を喋ってしまったのでハクチョウとはだいぶ違う僕は言う。


「地球が誰のためでもなく青く光っているようにですか?
 だからBLUE EARTHなんですね。」
記者は言う。



急につじつまが合って驚いたので僕は電話を切る。







4月1日(水)~4月6日(月)午前10時から日没まで

「池平徹兵展 BLUE EARTH」

場所 島根県立美術館