衛星

僕たちの衛星が宇宙を浮遊している。
僕はそれを地球のコントロール室のモニターからじっと見つめる。
または僕自身がエンジンである場合に供え待機中でもある。


たとえばこうして散歩中にすれ違うほとんどの人よりも僕は速く泳げる。
それはニューヨークに行ってもパリに行っても同じようにそう思う。
だからといって僕は泳いでもいいし泳がなくてもどちらでもよい。
好きなようにやれば良い。


その日、僕はいつもの温泉付きプールでゆっくり過ごすのをやめて、
市民プールの50mの繰り返しを一分のインターバル制限を課して
20本終えると外の公園で噴水を眺めていた。
出来たての松ぼっくりが深い緑に薄い緑の水玉模様を浮かべている。
もうコーヒーカップ1つ持ち上げる力は残っていないけれどあまりに喉が渇いていたので、
うさぎ橋をわたり対岸のカフェに入ってコーヒーを1つ注文した。

「あなた絵を描いているでしょ。」
スイミングセットを持った僕を見てそれを見抜けるとはたいしたものだと僕は思う。

「よく分かりましたね。実は僕 も 絵を描いています。」
もしこれでそのマダムも絵を描いていれば引き分けに持ち込める。

僕はスイミングセットを持ったままマダムと30分のお茶の時間を楽しんだ。
彼女はやはり素敵な芸術家だった。
「あなたはここへ行くと良いと思う。」



日を改めて、僕はマダムに指定された眼科へ二人のマネージャーと一緒に行く事になった。
そこには素晴らしい未開拓の世界が広がっていた。



「素晴らしい情報をありがとうございました。僕はあそこで何かやることになると思います。」
先日のカフェへお礼を言いに行く。
二人のマネージャーとマダムが頷く。

「その時は是非ご案内して下さい。」
マダムは言う。
「もちろんご案内させて頂きます。」
マネージャーが言う。

まだ何一つ決定はしていないけれど。
いつものように僕たちの衛星は巨大な宇宙空間を浮遊している。


「素晴らしい。」
パリのブリアンデカナエが僕に言う。
パソコンのモニターに向かって話しかける時、何故か僕はいつも月面着陸を見守るNASAステーションを思い浮かべる。たぶん彼女の日本語の通じなさもそれを手伝っているように思う。


僕たちの作品はたんぽぽの綿毛のように様々なそれでいて的確に着陸していく。
その度にモニターに向かって
向こう側の姿の見えないOFFICEBACTERIAと乾杯をする。

僕たちの作品は吉祥寺パルコを終えて次は装苑に着陸した。
とても小さな一歩ではあるけれど。
それは1年前にパリでたてた計画通りだった。

これでまたその背後に広がる漆黒の闇に向かって進む事が出来る。


ぼくは地球のコントロール室で静かにそれを見守る。
又は気流の流れが乱れたり、止まったりした時は僕がエンジンになる準備をしている。


それ自体が宇宙であれと僕は思う。






松江イングリッシュガーデンへの出品は21日までです。その後作品は島根県立美術館ミュージアムショップへ移動します。
島根県立美術館ミュージアムショップで僕のポストカードが販売される事になりました。
*今月発売の「装苑8月号」にOFFICE BACTERIAの作品が掲載されます。
http://fashionjp.net/archive/newcomer/new-creater/2009-1/office-bacteria.html