出雲から亜矢子の父と母と祖母が東京のアトリエに遊びにやって来た。
とても無邪気な出雲の一家にとって孫の咲哉に会える事はオプション感覚であったので、
僕たちは高尾山に行く事にした。


ケーブルカー左、リフト右。
案内表示にはそう書かれている。
「リフトの方が景色が良い。」
母は言う。
そのとおりだと僕も思う。


無理だとは思うけど、
僕はベビーカーを押しながら、リフト乗り場へ向かった。


「そのままかついでどうぞ。」
係員は当たり前のように言う。
ベルトも手すりも何も無い古いブランコがカタカタカタと音をたてて通過する。


ここはまだ、何もかもが禁止された世界の外にある。


空中ブランコに揺られて山頂を目指す。


遠い地面をリスが走る。


そして僕は今日から秋を始める事にした。