山の向こう

とてもとても大きな壁だった。
生まれてはじめて完全な敗北という言葉を頭に思い浮かべるような。
僕はそれを見上げて途方に暮れる。


島根県出雲市、雨の降り出しそうな雲に覆われた小さな神社の境内。


「実は大きな壁にぶつかりました。」
何の解決策も見いだせないまま誰かに相談したのは始めての事だった。

「少しお待ちください。」
奥の部屋から戻ってきた神主が抱えていたのは解決策ではなくストーブだった。


心が温められて雲の向こうの日の射す方角を確認した。


僕が小さなアリだとしてもダムに穴をあける可能性はゼロじゃない。
あるがままの水の流れへ解き放つ小さな穴を必ずあけてみせよう。


*但し、僕がやる事はいつも開け放つ事のみ。


夜明け前の空港で朝日が昇るのを僕は待っている。
もうすでに何処かに日が昇っているのではないかと思うくらい景色は明るい。
たぶんこの窓からは見えない方角に太陽があるのだろうと諦めかけた時、
山の向こうからギラギラの太陽が昇ってきた。
僕はそれを見届けて羽田行きの飛行機に乗った。