2つの新作と日本のおじさんたちへ

「いつものようにまるで引退を賭けたような新作をお願いします。」

いつも自分ではそのつもりでいたけれど、それはなかなか難しい。
そして人に言われたのは初めてだった。
僕の作品制作に対する姿勢が伝わっている事の嬉しさと、
そんなに簡単に引退を賭けた作品制作なんてできないと言いたくなる気持ちが、2~3秒戦う。

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池平咲哉2さい。
今一番なりたいものはおじさんです。
毎朝ひげが生えてないか自分の顔をチェックします。
早くおじさんになって、自由にゴミ収集車の後ろに飛び乗ったり、
消防車のホースから凄い威力の水を噴射したり、救急車のサイレンを鳴らしてけが人のもとへ駆けつけたり、ショベルカーで信じられないくらい深い穴を掘ったり、ヘリコプターや飛行機で空を飛んだり、
宅急便を届けたりしたいのだそうです。
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2~3秒悩んだ後、5秒後には僕はやる気の固まりになっていた。

「もちろんそのつもりでいきます。」

と僕は応える。



「できれば明暗、昼と夜の2つの新作をお願いします。」

1つでもやれるかどうか分からないのに2つ。
それは無理かもしれないという気持ちと、全力をかけて作品を制作をしようするギャラリストの期待に応えたい気持ちが、2~3秒戦う。
ギャラリストにとっては今この瞬間、その結果が何を描かせ何を生むかが作品制作といえる。
隣にかわいい咲哉がいる事にまるで気付いていないかのように真剣な表情で僕の作品を見ている。

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2歳にとっては日本のおじさんたちはまだまだ魅力的です。
今日も2歳のあこがれであることをもっと自覚しなさい。
子どもに見られている事に気付かないほど真剣な表情で何かに打ち込んでいるのがベストですが、そうでなくても子どもに見られていると気付いたら、全力で走ったりジャンプしたり素早くセミを捕まえてみせたり、近くのブルドーザーなどだいたい鍵は付けっぱなしにしてあるので運転してみせたり、その辺にある重いものを例えばマンホールのふたを軽々と持ち上げて地下に消えて行ったり、警察官でなくとも敬礼してみせたり出来なくても、せめてどんなに疲れていても誇らしげに疲れてみせて下さい。もっともっと頑張らなきゃダメです。
僕もです。
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2~3秒逃げ道を探して見つからない事を確認した後、
5秒後に僕はいつものように簡単に期待を超えていきそうな画家を演じている。

「それは良いアイデアだと思います。」

と僕は言う。


そしてそのとおりになる。



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ギャラリストが帰った後、同じ場所でおじさんになりきった2才が作品を真剣な顔で見つめている。





2011年11月1日~11月3日
EMERGING DIRECTOR'SART FAIR ULTRA004
SPIRAL GARDEN
ART GALLERY KAKUJI contemporary より発表します。
http://www.spiral.co.jp/c_profile/press/pdf/press_201109_ultra004.pdf