行き先

表彰式へ向かっていると駅で知らないおばあちゃんが話しかけてきた。

僕が歩いていると不思議な事に主におばあちゃんと外国人と宮島の鹿がとにかくたくさん僕のところへ集まってくる。

おばあちゃんは何回道順を案内しても僕のところへ帰ってきた。

こんなに大勢の人がいる駅の中で何度も何度も僕の前に登場して行き方を尋ねてくる。

しかもその度に行き先が変わっているので、もはや説明もしたくなくなってきた。
このままでは永遠に僕はこの駅から前へ進めない。


「まず行きたい場所を決めましょう。これじゃいつまで経っても前へ進めない。」
と僕は言う。
三鷹にします。」
とおばあちゃんは言う。
「さっきは府中だと言ったけど三鷹でいいんですね。」
と僕は確認する。
「府中と三鷹は同じでしょ?」
とまたややこしいことを言う。
「違います。府中と三鷹は決して同じではありませんが三鷹へご案内します。」

しょうがなく僕は中央線のホームまで連れって行って一緒に電車を待ち、おばあちゃんを電車に乗せた。
「この電車で一本です。三鷹で降りてください。」
僕は手を振っておばあちゃんを見送った。

これで僕は僕の行き先へ向かう事が出来る。

僕は武蔵野線に移動して電車を待った。

遅刻している時の電車の待ち時間は急ぎたくても急げない長い長い時間に感じられた。

電車が来て電車に乗り込む。
すると信じられないことが起こった。

なんと目の前の座席にさっき中央線に乗せたはずのおばあちゃんが座っている。

「何でそこにいる!」
いったいどうやったらそんな登場が出来るんだ。

「また会うなんて本当に不思議だねえ。」
とおばあちゃんは笑った。

怪奇現象だ。と僕は思う。

これは僕に取り付いた座敷童みたいなものかもしれないなと思った。

試しに車内にいた暇そうな女子高生にこのおばあちゃんが見えるかどうか聞いてみた。
するともっと信じられない事に本当に暇なのかおばあちゃんを私が送って行くと言ってくれた。
こんな優しい女子高生は見た事がない。
こなに優しい女子高生になら座敷童は譲ってあげよう。

こうしておばあちゃんと僕の代わりにおばあちゃんに取り付かれた女子高生は次の駅で降りて行き、僕は表彰式に遅刻した。

だからといって僕はここからどこへむかっているのだろう?
とにぎやかな会場の中で僕は思う。

「まず行きたい場所を決めましょう。これじゃいつまで経っても前へ進めない。」
と一時間前の僕が言う。

おばあちゃんの欲しかったものは行き先ではなかったのかもしれないな。
と僕は思った。