そろそろこの辺りで一人で描く一枚の絵で過去をまとめて超越してみたくなってきた。
絵本作品に没頭したり、気の済むまでワークショップ制作に没頭したことが、
「通常とは異なる環境で新たなトレーニング効果を得ようとする低酸素トレーニング」から帰って来たスポーツ選手のように僕を進化させている。
ただ目に力を入れて白紙のキャンバスを凝視しただけでそれが分かる。
「白い画面を見ただけでもうすでに僕は過去の僕を超えている。」
まっさらなキャンバスに次々に立ち上がるイメージを眺めながら僕は僕に言う。
ようやくこの時は来た。
2015年1月5日
最初の一筆。
しっかりと自分に力が補充されているのが分かる。
これならベスト記録を狙える。
何か新しいことをしようとする必用はない。
僕自身が新しい毎日を生きていれば作品は自然と新しくなる。
年末からこの日のコンディション作りをとても真剣に考えて過ごしてきた。
描きはじめてからわずかで「これは自分の代表作となる」という思いが生まれる。
きっとこれまでにたどり着いたどの場所よりも先へ行ける。
生きていて一番楽しいと感じるこの瞬間が体に沁みる。
夕方、疲れてソファに座っていると、保育園から咲哉が帰って来た。
普段は滅多に泣くことがない咲哉が僕の絵を見て泣き出してしまった。
何で泣くのか分からない。
理由を聞いても何も答えない。
「言ってもだめだと思う。」
と咲哉は言う。
「説明しないと何で泣いてるのか分からないよ。」
と咲哉を膝の上に乗せて僕は言う。
ようやく泣き止んだ咲哉が小さな声で僕に言う。
「僕もぺらぺらの紙じゃなく、お父さんと同じ大きなキャンバスが欲しい。」
僕は5才に圧倒的な力の差を見せつけてしまったことにようやく気がついて咲哉を抱きしめた。