アリ達の旅の物語

朝起きるとパソコンが蟻の巣になっていた。

モグラ叩きのように、キーを押すたびに蟻が顔を出す。

びっくりして焼きすぎたトーストのかけらが口に刺さった。

痛みに夢じゃないことを証明されて、余計に混乱した。

蟻は餌を手に入れれば自分の家に帰る。

このパソコンの中に蟻の喜ぶものは何1つない。だから蟻は帰らない。

収穫なしじゃ家に入れてもらえない。だから蟻は家に帰らない。

このパソコンに砂糖を振りかければ、満足して帰ってくれるだろうか。

逆にもっとたくさんの仲間を呼ぶかもしれない。

そんなことを考えているうちに蟻の出発点を発見した。

島根から持って帰った風欄の盆栽だった。

蟻達の家は島根にある。蟻達は帰らないし帰れない。

今日の午後は、飛行機で福岡に出発。

なのに風は台風のように吹き荒れてて不安だし、パソコンは蟻の巣だし、どうすれば今日が良い絵につながるのだろう。

結局いつも全ては次の作品次第。

パソコンの上の蟻達のできる限りを捕まえてベランダの強風で遠くへ飛ばした。

午後には僕もこの強風とともに福岡行きの飛行機に乗る。

きっと蟻と自分が重なって、素敵な絵が閃くかもしれない。