中心の木

沢山の雷と大粒の氷が降って町は冷やされた。
予定をプールから温泉へ変更した。
露天風呂から雨粒の落ちてくる空を眺める。
暖まった体を雨がちくちくと突つく。

飛ばした種の方ばかり見ていると本体の木がダメになる。
飛んで行った種達のことは考えない。
常に心は本体に宿す。
中心の事だけを考える。種を生む中心の事だけを考える。
たくさん種を作れば作るほど種を飛ばせば飛ばすほどその行く先が気になってくる。
それが中心の魂を薄くする。
一点に注ぎ続ける事。

一旦水風呂に入って、体をリセットする。
再び雨の露天風呂へ行く。雨はさっきより強くなっている。

そこにずっと注ぎ続ける。
木は大木になり幹は世界を覆い、やがて種は飛ばさなくても直接枝や根の先が届くようになる。
本当は種を飛ばしているうちはまだ弱い。
いつ枯れてもおかしくない状態。

サウナに入ってみる。肺が焼かれて息が出来なくなる。
でもみんな耐えている。
誰が一番平気な顔を出来るか競っている。
だから僕も頑張る。

今日はせっかく涼しいのになんでこんな思いしてるんだろう?
もう無意味な戦いは終わりにしようよ。

鏡の前で髪を乾かす。鏡は合わせ鏡になっていて世界の果てまで更衣室が続く。
その終局を見ようとするけれど僕自身が邪魔してよく見えない。
中心には僕が映っていて中心がどうしても見えない。

「中心の木はここなんだよ。そこから目をそらす事は出来ないんだ」と鏡の中の僕は言う。
「知ってるよ。さっき露天風呂でそれを見つけたんだ」

中心の木の事だけを考える。
そこにずっと注ぎ続ける。