夏休みの藤壺

深海を旅したおもりに藤壺が沢山ついている。
それを拾っているうちに夕日が海に沈み始めた。

僕はカメラのレンズを覗く。
肩に蚊がとまって血を吸うけど無視する。
横から亜矢子がそれを叩き落とす。
手元が少しぶれる。
顔に蚊がとまる。それも無視する。
それもやっぱり亜矢子が横から叩き落とす。
僕はカメラのレンズに眼球をぶつける。
僕はカメラを覗き続ける。
亜矢子はさされた箇所に×の印をつける。

藤壺と海と夕日と蚊と×の印が記憶の貯蔵庫に保管される。
そのとき撮った写真はそれを取り出す鍵の役割を果たす。
貯蔵庫が満タンになったら作品を生む。
どんな作品が出来るかは貯蔵庫次第。

僕は画家の仕事より、貯蔵庫の管理人の仕事で毎日とても忙しい。