蝶チョの日記/最終章

「そろそろ死にたいと思います。」
蝶チョは突然思い出した様に別れ話を始める。
ここ最近、蝶チョは幼虫の頃.サナギの頃.そして蝶になってからの日々を一つずつ振り返る事に没頭していた。
その作業が一通り終わったようだ。

今日の朝、蝶チョはベッドの上で死体になっていた。
確かめなくてもそれは分かった。
魂がそこにあるもの、魂の抜けたものの違いは歴然だった。
そこにいるけどもうそこにはいない。

僕は蝶チョと生前に密かに交わした約束を果たさなければならない。

その魂の抜け殻を持ってセブンイレブンへ行く。
コピー機に乗せてカラーコピーのボタンを押す。
その様子を、映像にも記録する。
コピー機から蝶チョの分身がいくつも出て来た。
どれが本物か分からなくなるくらい完璧な分身達。

蝶チョがどうしても果たせなかった最後の願いを叶える。
子孫を残す事。
ほとんどの生物は命を次の世代へつなぐために生まれて来ている。
芸術家は蝶チョを蘇らす事は出来ないけど、
作品の一つ一つに魂を吹き込む事が出来る。
「大丈夫。君の分身達は僕の作品となって永久に生き続けるよ。」

そして抜け殻を本当は前方後円墳を作りたかったけど、玉川上水に流す。
蝶チョを乗せた船は何処までも沈む事無く流れて行った。
「おつかれさま。」
手を合わせて冥福を祈る。