大人の文化祭

「私に負けたら世界一の画家を辞めないといけないよ」6才のいつきが僕に言う。

どんなアーティストトークより僕を動揺させた。

僕はまだ世界一の画家ではない。
絵は勝敗を競うものではない。

でもそう簡単には断れない。

僕を世界一の画家であると認めた上で勝負を挑んでいる。
並大抵の覚悟で出来る事ではない。
僕は1時間くらいなら未来を先取りして世界一の画家を演じる事が出来る。
並大抵の覚悟で出来る事ではない。

「いいよ勝負しよう」と僕は言う。

子供に子供っぽく対抗しようとしても勝ち目は無いし、上手さを競って勝っても全く意味が無い。

アーティストとしてどれだけ良い作品を描くことが出来るかを考えて同じスケッチブックに本気で描く。

上手にピカチュウの絵が描けても世界一の画家にはなれない事を教えた。
線の自由さを競っても子供より良い絵は描けない事を教えられた。

大人の文化祭の初日
僕はまだ子供になれることを知った。
いつきは世界一の画家は子供である事を知った。