ドラゴンフルーツと深海の冒険

森林の向こうに三本の塔が見える。
絡まったツタは紅葉を始め、その上空を飛ぶカラスでさえも今日は美しく見える。

昨日の夜、ドラゴンフルーツをまっぷたつに割った。
見た事も、もちろん描いた事も無い鮮やかな色。

建物は米軍基地との国境地点にまたがった公園内で厳重に封鎖され、槍のような柵に周囲をかこわれている。
一枚だけ打ち付けられた板がはがれているのを見つける。
猫なら一瞬で柵など乗り越えて、あの透き間から中に入るだろうと思う。
公園内はピクニック日和ののどかな家族で賑わっていた。

ドラゴンフルーツをまっぷたつに割った僕はその色をどうにか記録しようと思った。
何度写真を撮ってみてもその色は写らない。
僕は深夜のコンビニでコピー機の上にそれを載せる。

僕は猫になりきる。素早く柵を乗り越え、はがれた板を突き破り中に飛び込む。
飛びこんだその場所は完全な闇だった。
忘れられた空気が忘れられた日に連れて行こうとする。
僕は少しだけ怖くなる。

蝶チョも完璧にコピーした写実力を誇るコンビニのコピー機でさえも、
ドラゴンフルーツの色は出せなかった。
しょうがないので僕はそれを網膜に焼き付ける。

迷うと帰れなくなるほど広いその中を手探りで進む。
吹き抜けの5階の窓から光が差し込む場所では植物が再生し、
それ以外の場所では生き物が誕生する以前と同じように時間だけがただ流れていた。
それらは僕を深海を歩いているような気持ちにさせた。


自然はいつでも必ず僕を遥かに超えた作品で僕を安心させてくれる。

もしいつか、不安に撃ち殺される事が合ったとしても、
ドラゴンフルーツを切るだけで僕は何度でも画家になる事が出来る。