電飾

コピーしたドラゴンフルーツの良い部分だけを100枚の小さな正方形に切り抜いてノートに並べる。
あの激しい色は決して一色ではないと僕は知る。
濃いピンクに薄いピンクに赤やその他、黒い種、反射する光。

マツダ絵の具さんから沢山絵の具をもらってきたよ。」絵の中のクララが得意げに僕に言う。
世田谷美術館に出していた絵がマツダ賞をとったらしい。
「ちょうど新しい絵の具が欲しいと思ってたところだよ。ありがとう。」僕はお礼を言う。

息を止めて深海に潜る。
水面に上がって来た時、そとは奇麗な夕焼けだった。

クリスマスの電飾をアトリエに飾り付けしていると亜矢子が帰って来た。
「おかえり。」
今日初めて声を出した事に僕は気づく。
「今日は絵を描く以外には何も出来なかったよ。」
いい絵が描けそうなのだけれど一応謙虚に報告する。
一日の報告が「絵を描いた」一言だけではちょっと寂し過ぎるとあわてていたところだった。

要約すれば僕の日記帳365ページは絵を描いたの一言で終わる。
要約すれば僕の伝記も絵を描いたの一言で終わるかもしれない。
美術の教科書の中に僕がドラゴンフルーツをコピーした事までちゃんと書いてくれるだろうか。
そこはとても大事なんだけど多分カットされるだろう。

「画家なんだからそれでいいんじゃない?」
亜矢子はあっさり言う。
それもそうかもしれない。

電飾の作業をやめて空を眺める。
今日の空はとても高く大きい。

重要なのは描いたか描いてないかだ。と僕は思う。
全ては作品の中に含まれる。

でもやっぱり作品の中に含まれる今日が必要なので僕はアトリエを電飾で装飾する。