確定申告の冒険

元気が無いついでに、一年で最も嫌な仕事、確定申告を済ませてしまう事にした。

去年一年分の領収書を一冊のノートにコラージュしていく。
もの凄い労力の割に対した作品は出来ない。
レシートのデザインの低さがやる気をどんどん消耗させる。
それでも何とか電卓を使いこなし、やり遂げる事が出来た。

外はとても天気が良く、雲のない空に昼間の月が浮かぶ。

市役所で、深刻そうな顔をした大人達の並ぶ列に加わる。
たまたまカバンに入っていた本に集中して結界を張る。
ここからが本番。意識をしっかり保たないと心が死ぬ。

僕はどれだけお金を使ったかと、どれだけ絵が売れたかについてだけ喋らなければならない。
どんな絵を描くかは、ここでは一切の価値を持たない。

予想通り市役所から出た僕はボロボロに自分を見失っていた。
だけどこれで嫌な予定が一つ減った。

僕は思い切り帰りの自転車を漕ぎ、3月のカーブで2月と市役所と風邪を振り切った。
昼間の月の下でようやく自分を取り戻す。
レシートのコラージュなんかじゃなくて本物の作品制作の意欲が帰って来た。