そして明日6月が終わる

何のご褒美かは分からないけれど、だいぶ前に自分へのご褒美に靴を買った。
それから特にご褒美をもらえるような出来事も無く、くつは玄関で何日もの間待っている。
僕もそれを履けずに過ごす。

セブンイレブンコピー機に生のイカをのせる。
出てきたイカのコピーの仕上がりに満足しながら、僕達はイカ刺しを食べた。

もう待てないし、僕は何一つ待たないことに決めた。

僕はご褒美の靴を履き渋谷の町を歩く。
置いてかれないように靴が必死についてくる。
町には先日発行された僕たちの対談が書店に並び、みんな僕の噂をしているように思えた。
それもきっと良い噂をしているに違いないと僕には思えた。

噂の僕はご褒美の靴を履いて歩き続ける。
何のご褒美かはまだ決めてない。
何のご褒美かはまだ決まってない靴が必死についてくる。

すると僕の前に一度に沢山の良いことがやってきた。
回るお寿司屋さんにいるかのように。
どれにするか早く決めてもらわないと存在意義が決まらないと靴が言う。

靴が僕になじんできた頃、深海のアトリエにアイルランドからの訪問者が現れる。
僕は何故か未だに英語が喋れない。
「僕は散歩が好きです。」僕が言うと
「ロッククライミングは得意ですか?」と彼女は言う。
「僕は水が好きです。」と僕が言うと
セーリングは好きですか?」と彼女は言う。
そして僕たちはまだ知らない世界を見ることが出来たし見せることが出来た。

玄関の靴が満足そうに微笑む。
そして明日6月が終わる。