夏休みと熱帯魚

一通りの任務を終えて僕は夏休みに入った。
2日間の雨はいつもの散歩コースを川にして、町のチリやホコリを奇麗に洗い流した。
以前僕が紅茶を飲んだ場所も今日は水の中に沈み鴨がその上を泳いでいる。

僕は新しく熱帯魚を買った。
深海魚のように白く半透明な体。
水槽のガラス越しに子犬がしっぽを振るように僕を見る。
僕が移動すると魚も移動する。
ここが水中ならきっと何処までもついてくる。

そして水換えの際に熱帯魚は飛び出した。
床に落ちた熱帯魚は水が無いことに驚いて放心状態になった。
水に戻してもその状態が続く。

「ここが僕の住める場所である限り君はここには来れない。
もし、ここが水の中だとしたら君は住めるけど僕は住めない。」
僕は熱帯魚に教える。

僕はこの夏、ベックリンの「死の島」を描こうと前々から計画していた。
そのためのリサーチを開始する。
僕は昔から宮崎駿ラピュタや長崎の軍艦島のようなイメージに強く惹かれた。
絵は何よりも自分の好奇心から描かなくてはならない。

放心状態になった熱帯魚の体を揺するとあわてて泳ぎだす。
ほっとくとまた放心状態になるので雪山の遭難者を起こすように僕は魚を起こす。
そうこうするうちに熱帯魚は何とか回復し始める。

来週の火曜日には飛行機に乗って島根へ向かう。
昨年の今頃、蝶チョとともに飛行機で旅したことを思い出す。

そこでやっと僕が何をすべきかに気付く。

「一緒にプールへ行こう。」
熱帯魚に向かって僕は言う。