チェス

@泥棒について@

泥棒に作品を盗まれた。
もちろん失った心の痛みは大きい。
全てのものは移動する。公園の小石を池に投げながら僕は思う。
所有権とは一時的なポケットにすぎず、長い時間軸の中で移動しないものは無い。
一万円の価値が僕とマイケルジャクソンとでは大きく異なるのと違って、
盗むリスク、罪と罰は全ての人に平等であるかもしれない。
「私は絶対許さない。」
泥棒の子孫まで届きそうな確固たる声で亜矢子が言う。
僕の思考は振り出しに戻る。


@警察について@

「一旦停止しなかったので九千円になります。」
警察が真面目な顔で僕に言う。
「そんな理由で九千円もらえるほどあまくないよ。」
僕は笑う。
「暑いのでパトカーの中で話しましょう。」
警察はそう言うけれど、そこは完全にアウェイな世界だったので、
ぼくは自分の後部座席に警察を乗せることにした。
座席に座った警察から余裕の表情が消えた。
道路交通法をいったん忘れて、自分の頭でよく考えて下さい。
僕はそんなに悪いことをしたとは思えない。」
僕は言う。
「私もそう思う。」
助手席に座った亜矢子も言う。

@コンピュータについて@

僕の絵の色をパソコンはいつもうまく表現出来ない。
「僕が一ヶ月もかけた絵を一秒で読み込もうというのがそもそも間違いかもしれない。
光の早さでなくていいからゆっくりやりなさい。」
パソコンに向かって僕は言う。
ところがパソコンとチェスをすると立場は逆転する。
チェックメイト。」
クールな声でパソコンが僕に言う。


気が付くと僕はあらゆるものにチェックメイトされていた。それらは全く予想出来ない角度からいつの間にか忍び寄る。
そして僕は一瞬身動きが取れなくなった。


あらゆるものが僕にチェックメイトすればいい。
チェックメイトで僕の絵は終わらない。
「その続きを見せてあげるよ。」
あらゆるものに向かって僕は言う。


:レストラン「はすとばら」の展示を入れ替えました。: