呼吸

夢の中で僕はライブペイントをしている。
いつものように描くときは、水中に潜るように呼吸を止める。
突然、息の吸い方を忘れる。
吸っても吸っても何も入って来ない。
先日のファミレスに酸素を取りに行こうとして夢だと気付く。

目を開けても引き続き呼吸の仕方が思い出せない。
吸えていないのか、吸い過ぎているのか、とにかく呼吸の仕方を完全に忘れた。
隣で眠る亜矢子の胸の動きに、リズムを合わせて息をしてみる。
このままでは僕は一生呼吸のことだけを考えながら生きていくしかない。
恐怖で僕の体が携帯電話のように震え始めたので亜矢子が目を覚ます。

夜空には久しぶりに沢山の星が輝いていた。
オリオン座もアンドロメダ星雲もはっきり見える。
僕は呼吸と引き換えに、深海の深くを見た。
苦しすぎる。
病院へ行こう。と僕は思う。

「呼吸の仕方を忘れました。」
医者に報告する。
「吸い過ぎです。」
医者が言う。
意外な答えだったけど、ちゃんと吸えていることにほっと胸を撫で下ろす。

息をすって息をはく。
明日の予定に呼吸を入れる。