2008年.鶴について

クリスマスイブの夜から僕の両腕は動かなくなった。
赤ちゃんくらいの握力で丁寧に2007年最後の作品を完成させる。

2008年元旦
初詣に向かう。途中の川でカワセミに出会う。
「あけましておめでとう。」
僕たちは新年の挨拶を交わす。とても素敵な一年が始まる前兆に思えた。
神社は凄く長い行列で神様も忙しそうだったので参らずに帰る。
また神様の寂しそうな日に出直そう。
参れなかったけど見たこと無い量のだるまが捨てられていたので大満足の初詣だった。
大掃除をしていると、押し入れから雀がもってきた貴金属がでてきた。
いくつかは作品に使ったけど使えないのは売りに行ってみた。
雀の持って来たプレゼントは一万円以上の高額で買い取られた。
「お年玉だね。昔話のようだよ。」と僕は玄関の雀に言う。
すると玄関の雀は僕に昔話を聞かせてくれた。


*鶴の恩返しの鶴について*

鶴は機織りに絶対の自信を持っていた。
ある日、おじいさんとおばあさんに隠れて自分の羽をこっそり抜いた。
それを織り交ぜることで他の鶴にはまね出来ない個性を手に入れた。
こうして鶴は本物の芸術家となった。
自分の羽を抜くまでに実は相当な苦労があった。
自分の身を犠牲にする覚悟。それは並大抵の覚悟では無かった。
だけどそれほどに鶴は機織りに全てをかけていた。


自分の身を削ることに美学を見付けた鶴はいつからか一つの作品の為に、
丸裸になるまで羽を抜くようになっていた。
全てを注いでこそ良い作品は生まれると信じていた。
しだいにそれはほとんど生けにえの域に達するようになる。
心臓の重みを限りなく現実に近い比喩上で作品にのせた。
鶴は一つ作品を生むたびに、一つ残らず羽をむしり、寒い冬には死の淵をさまよった。
おじいさんとおばあさんはそんな鶴をとても心配した。


「このままだと鶴は死ぬ。厳しいようだけど君はこの鶴だよ。
 ここからが難しいんだ。君はもうその答えが見えているね。」
雀が僕に尋ねる。

「分かっているよ。僕は死なない。もう羽も抜かない。
 僕はこれから実際には羽を一本も抜かずに、全てを抜いてみせる。」
僕は言う。

もはや全ての羽を抜くことはいつだって出来る。今年はその先へ進んでみようと思う。


2008年1月6日。「花咲く水槽」展、始まります。
詳しくは活動予定をご覧下さい。
今年も宜しくお願い致します。
明けましておめでとうございました。
teppei