水槽ホームステイ

「素晴らしいアイデアがあるんだ。君もきっと喜んでくれる。」
アトリエの熱帯魚に僕は言う。


熱帯魚を3ヶ月間ホームステイさせることにした。
僕も熱帯魚もそういう時期に来ていた。

受け入れ先の水槽を探して散歩に出掛ける。
いろんな水槽を見てまわる。
僕は水槽が好きなのでそれはいつもより楽しい散歩になった。

薬局。
病院。
デパート。
いろいろまわる。
結局 市役所の玄関のに決めた。
サイズも小さく、いつ行っても素晴らしい透明度が保たれている。

特殊なホームステイなので、
どの窓口で相談して良いか分からず市役所内をぐるぐるまわる。
変な人に思われたら計画が失敗する。
向こうから背広の良く似合う白髪の老人が歩いてきた。
「すみません。玄関の水槽の担当の方を探しています。」
怪しまれないようにとても丁寧に尋ねる。
「私です。どのようなご用件でしょうか?」
なんと僕はこの込み合った市役所内で一発で命中させた。

「素晴らしい水槽だと思います。」
僕は言う。
水の透明度、魚の表情、この市役所での水槽の意味など一通り会話した後、3ヶ月のホームステイのアイデアを伝える。僕の魚を3ヶ月の間ここに入れてください。

「残念ながら私はこの春で退職します。この水槽も多分それまでです。
 私はこれまであの水槽のお世話をずっとしてきました。2週間に一度水を換えます。
 心が少しでも和みますでしょ?
 でも褒められたのは初めてです。最後にとても良い思い出になりました。
 少し待ってください。」

白髪の老人はとても親切に水槽を引き継ぐ人を探し始めた。
みんな忙しそうで熱帯魚屋の連絡先を調べたり見当違いなことを言う。
意外な展開で僕はどうして良いか分からず老人についてまわる。

そして白髪の老人と水槽は3月いっぱいで市役所からいなくなる。
「ありがとうございました。」
僕はこころからお礼を言った。


「君の受け入れ先は見つからなかった。だけど君はどうやら僕と老人に素敵なプレゼントをしたようだ よ。」
 アトリエに戻った僕は熱帯魚にエサをやる。