カンガルー牧場

カンガルーたちは昼寝の時間というより実は夜行性らしくほとんどが眠っていた。
それでも20匹くらいはなんとか起きていて予想よりずっと細い手で僕と握手した。
全員カンガルーなので僕には社会の仕組みがよく分からない。
全員カンガルーでなくても多分僕には分からない。
僕は画家なので定期的に動物を撫でる必要がある。

「一般的にはそういう許可は出してません。」
「一般の方にはそういう許可は出せません。」

この二つは似ているようで全く逆のことを言っている。
僕はたぶん一般的なタイミングを間違えてありとあらゆることを断られ続けてきたような気がする。
カンガルーを撫でながら僕は考えていた。


僕がカンガルー牧場を出ようとすると一匹の大きなカンガルーが一緒に外へ出ようとした。

「そのカンガルーはおじいちゃんで少しぼけているんです。」
飼育員の人はそう言うと僕と一緒にそのカンガルーを外に出してあげた。


「僕は一般的に外へ出る。又は
 一般的ではないから外へ出る。」
老カンガルーが僕に言う。


老カンガルーは起きているのか寝ているのか分からない表情でスローに跳ねて止まった。
セリフの何処かを間違えたような気がするらしい。

どちらにしても大成功。
とてもみごとな脱走だった。


少しだけ仕組みの分かった僕は人間社会でそれを試そうと思う。